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The moon is beautiful!

 冗談みたいに。



 自然界において、強さと美しさはイクォールで結ばれる。
 流れる水がそうであるように。梢を鳴らす木々がそうであるように。鮮烈な光を宿す炎がそうであるように。時を運ぶ風がそうであるように。
 或いは、猛る獅子が、指先にも満たぬ草花が、そうであるように。
 だが、人間だけは違うのだ。沢田綱吉はそう考えている。
 美しいものは弱く、醜いものは強い。
「何故なら」
 何故なら―――と。
 淡い色彩を持つ青年は、矢張り淡い微笑で以って口を開く。
「人間自体が、そもそも醜い生き物であるから」
「もしくは、人間の在り方自体が元来自然と矛盾したものであるからかな?」
 返す言葉は、軽い。
「そう。間違ったから、間違ってるから、間違いながら、気付く前に気付く必要もなく気付こうともせず」
「それは如何かなぁ」
「お前程偽善的にはなれないよ、白蘭―――」
「そう?」
 カチャリ。
 小さな音に視線を上げる。白い男が、カップをソーサーに戻していた。丁度一口分、カップの底に残った紅茶に眼を細めた綱吉を嗤うように、白蘭が口の端を吊り上げる。
「君の偽悪には、負けるだろうけれども」
「言ってろ」
 綱吉も答えて嗤った。ファミリーの人間の前では決して見せないそれは、彼等とは違うベクトルでの信頼の表れだ。
「だから、一つだけ揺るがない事実がある」
 ゆったりと腰掛けて、無防備に首を傾げる。
「少なくとも、俺と貴方は―――」

「「敵」」

「―――だね」
 僅かな空隙を嘲笑って、青年はマシュマロを口に放り込む。
「食べる? 美味しいよ」
「遠慮しておくよ。お前の好物なんて食べる気にならない」
「誰がいつマシュマロが好きだなんて言ったのかな?」
 ひょいと眉を上げた白蘭に苦笑し、それからふと思い出すように。
「あいつらはね、綺麗だよ。少なくとも俺にはそう見える」

 水晶のように、
 薄氷のように。

 それを聞いて、白蘭は堪らず笑い出した。
「成る程。成る程ね! 確かに僕等は相容れない! そう、アルコバレーノに関しては!」
「否だ、白蘭。それ以外でも、だよ」
「知ってるさそんな事!」
 彼は言った。この世界のあらゆる知識と邪気を放棄した表情で。
「彼等にとって一番残酷なのは愛情、であるのに?」
 それが彼等を弱くするからね!
 笑う道化に道化は動じない。
「それは違うよ。あいつらは―――最初から弱いんだ。多分じゃなく、誰よりも」
 最強を冠する彼等を、青年は最弱と断じて。
 まるで聖職者にも似た罪深い存在であるかのように厳かに。
「言ったろ? あいつらは綺麗だって。綺麗で、強くて、でも―――人間だ」
 だから彼等は弱いのだ、と―――沢田綱吉は微笑む。
「だからね、俺があいつらを守りたいんだよ。だっていつも守られているんだから。守られて、愛されているんだから」
 それが世界の真理のように、摂理のように、一欠片のパンを望むヒトのような傲慢さで。
「お前があいつらを害すると言う限り、俺達は敵同士だ、白蘭。俺は弱いけど、弱くても、それであいつらを守れないと言うのなら」
 愛しい虹を。
「―――だったら俺は、醜くて良いよ」
 それは半分本当で、半分嘘だった。何故なら綱吉は最初から自分を醜いと思っていたので。
 笑いを止める事すら忘れたまま、白蘭は問う。
「ねぇ、綱吉クン。そこまで彼等を思うのは何故?」
「『何故』?」
 綱吉は瞬いた。愚問と、言いたげに。冗談にも思える表情で。
「だってさ―――」


 愛してるんだ。

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