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求めたものは

「ねぇ、赤ん坊」
「何だ?」
「この指輪って、結局何なの?」
 疑問は質問に。
「証だ」
「何の」
「お前達がツナのものだという、証。絶対的な忠誠を誓い圧倒的な能力を揮う、全ては大空の為にと」
 思い出す、一人の小さな少年。
「……彼は、そんなもの求めてはいないだろうけど」
「だろうな」
 くつりと、―――笑う。
 それは決して無邪気とは呼べないものであったが、悪意を内包している訳でもなく。
 喩えるならば愛情なのだろうかと、雲雀はそう思うのだ。
 あまりにも捻くれ過ぎているが。
「……可哀想に」
 言った言葉は愉快げで、だからこそ。
「それでもお前は、それを、享受するんだろう? 雲雀―――」
「冗談」
 躊躇う事なく、雲雀は切り捨てた。
「君達の言葉を借りるなら、僕は『雲』なんでしょう? だったらそれらしく振る舞わせてくれるくらいはしないのかい?」
 喉の奥を嗤うように鳴らして、口にした台詞に嘘は無い。
「どうだかな」
「『ボンゴレ』―――だったっけ」
 思案するように指を顎に添えて。
「10代目ファミリーは、彼がいなくなれば完璧に終わるだろうね。ボンゴレという組織全ては無論だけど、その人間、一人一人が」
 多分。
 彼等は、沢田綱吉に依存し過ぎている。
「彼一人死ねば、周りの全てが折れる。そうすれば、彼等の支えていた全てが崩壊する」
 何人死ぬのか、などと。
 恐らくあの弱い人間は、考えもしないのだろう。
 まだ。
「可笑し過ぎて、笑えない話だ」
 それこそ本当に可笑しそうに笑う雲雀に対して、彼はにこりともしなかった。少しだけ意外そうに、少年は首を傾げる。
「それとも、それこそが、君の教育の狙いかい?」
「雲雀」
 名を、呼ぶ。呼ばれる、それだけの行為で、空気は一瞬にして変わる。
 小さな子供は口を開く。
「お前は―――」





 恐らくあの時の事を思い出したのは、今、正に、自分の手元にリングが無いからだろう。
「雲雀さん」
 少年王。弱い存在。大空。暴君。
「雲雀さん、―――この、リングは、貴方のものです」
 鎖に通されたアンティーク。一目で最高級の品だと知れる。
 持ち歩いていたそれを眼の前に示されて、雲雀はゆるりと瞬いた。
 足は完全に動かない。完治には時間が掛かるだろう、と思った。
 雲雀からリングを一時的とは言え奪った男は、今は綱吉の手によって気を失わされている。
 殺さないのは偽善だろうか。それとも自己保身?
 どちらでも良かった。
「……沢田、綱吉。君にとって、それは何?」
「要らないものです」
 綱吉は答えた。
 一切の逡巡も、躊躇も、そこには存在しなかった。
「こんなもの、本当は必要無い。でも、―――これで少しでも皆が生き残る確率が上がるんだったら、使う。それだけです」
「……そう」
 雲雀は顔を上げた。綱吉が膝を付いて、彼にリングを握らせる。
「君は、簡単に膝を付くな」
「え?」
 きょとんとしたのは、多分意味が判らなかったのだろう。何しろ彼は少し馬鹿だったので。
 まぁ、それでも良い。それでも良かった。
 赤ん坊の言葉を思い出す。思い出して、それから雲雀は、手の中の証を握り締めて眼を伏せた。

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