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本誌よりラルツナ。


月が欲しいと泣く子供

 決意と願望を綯い交ぜにしたその言葉に。
 あぁ確かにこの男は沢田綱吉なのだと、ラルはそう思ったのだ。

「……泣かないんだな」
 ぽつり、と。
 ラル・ミルチはそう言った。
 願いを知る子供。力を厭う子供。
 けれど彼はその経験から、力は否定出来ないものなのだと知っている。
「ラルさん?」
 話し掛けられて、綱吉は驚いて振り返った。見上げた少女の顔色は悪い。
「だ、大丈夫? ラルさん」
「平気だ」
 気丈に返した彼女に、彼はそれ以上なにも言えずに沈黙する。
 何をするでもなく、ただ呆と座り込んでいる少年に、ラルは再度口を開いた。
「お前は、泣かないんだな」
「え?」
 横に腰を落ち着けた彼女の言葉に面食らう。
「そう、かな。泣いてばっかな気もするけど」
「弱音ばかりだし、泣いてばかりだが」
 それでも、と。
 矛盾だらけの言葉。多分意味など無い。
「お前は、その背に、負う心算か?」
「まさか」
 綱吉は首を振った。力のない笑みを浮かべて、言う。
「皆の命を皆で少しずつ背負ったら、結局一人分ずつ背負う事になるんじゃないのかなぁ」
 独り言のような、台詞。
 多分、嘘。半分本当。
「お前は、変わらないな」
 眼を細めて、ラルはそう呟いた。矢張り独り言のように。
 相手のいない会話を互いに、それでも言葉は続く。
「願いも、望みも、祈り、それさえも」
 恐らく。

 未来は、人が思っているよりもずっと近い。

「………ラルさん…………」
 きょとん、とした顔。
 時々彼の決意は誰をも動かす。酷く頼りない大空。けれどだからこそ、誰かが支える事が出来る。
 完結した存在に、他者の入り込む隙は無いのだ。
「お前の願いは何だ?」
「皆と一緒にいたい。下らなくて平和な日常で」
 それだけだよ、と。
 本当に呟くように、言った。言葉。
 ラルは息を吐く。
「俺、間違ってるかな―――」
「少なくともお前の願いは、この世界において傲慢に過ぎるな」
 けれど少なくとも、彼女の知る王は確かに傲慢だったのだ。
 もしかしたら眼の前にいる何も知らぬ王、それ以上に。
 何も変わらぬ子供。月が欲しいと泣きながら、その実勝ち取ってみせて笑う。
「沢田」
 ラルは口を開いた。綱吉が首を傾げる。
 夢を手向けた青の薔薇は多分咲かない。紅の薔薇が朽ちるのと同じに。
 咲かなくとも良い。夢は夢で終わらせて、多分叶わなかったのならばそれは最初から夢だった。
「お前は―――」
 お前は、と。
 その言葉の続きを、言うか迷った。無言で続きを待つ少年をちらりと見遣る。
「何、ですか?」
「……いや」
 何でもない、気にするな。
 そう言い捨て、立ち上がる。僅かに感じた眩暈は無視した。
 少年は動かない。未だ暫しいる心算か。
 ラルは彼に背を向けながら、ゆっくりと、胸の中で言葉を噛み潰した。


 お前は多分、建国者ではなく傾国の王だ。

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