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骸→ツナ前提。これ大事。


弱い人、強い人

「……、―――」
 微かに気配が動いた気がして、綱吉は顔を上げた。
「……骸?」
「………」
 流石に理解が追い付かないのだろう、緩く周囲を見回している青年に声を掛ける。未だに憑依はしたままだ。
「――――沢田綱吉」
「大丈夫か?」
 近付く。その瞳の色に、綱吉は顔を顰めた。
 闇。昏い、光とは隔絶した色。既に根を深く張ったそれ。
「骸、お前―――」
「貴方ですか?」
「は?」
「貴方が、僕を、助けたのですか? 沢田綱吉」
「………」
 数秒、―――綱吉は逡巡した。
「……そうだよ」
「ほう」
「――――!」
 瞬間。
 綱吉がそれを認識するよりも早く、骸の手が首に伸びて来ていた。
 首を掴まれてぶら下げられる。気道を塞がれて、綱吉は顔を歪めた。
「ぁ、……がっ」
「誰が、頼みました? 僕を、この僕を、助けてくれなどと」
 にい、と。
 顔が歪む。多分笑みの形に。
 霞んだ視界の中での判別は難しかったが。
「この片手だけで、首の骨を折れそうですね、ボンゴレ?」
 その言葉通り、無慈悲に力が籠められ―――最悪のタイミングで、扉が開かれる。
「ツナさ―――ツナさん!?」
 ハル。
 呼んだ名前は声にはならずに、喉の奥で潰れて消えた。正確には潰されたのだが。
「ちょ、貴方何やってるんですか!」
「黙りなさい、部外者」
「ッ!」
 ハルが唇を噛み綱吉が蒼白になる。この青年は女子供とて容赦しないだろう。
「ろ、―――止め」
 微かな制止は届いたのか如何か。確かめる前に地に叩き付けられて息が止まった。
「マフィアに助けられるくらいならば死んだ方がマシでしたよ! 忌まわしきボンゴレの血統が!」
「か、―――は」
「何故、貴方が! 何故貴方がここにいる―――」
「……?」
 その響きに、不審げに綱吉が顔を上げる。その胸倉を掴み上げて、骸は言った。
「ボンゴレは、―――沢田綱吉は、もう死んだんです!」
「……骸」
 声は掠れていた。掴み上げられていた所為で痛む喉に顔を顰めつつ、その美貌を見上げる。
「全部、俺の我侭だよ。―――でも、それでも」
 祈るように。
「俺は、もうこれ以上皆に苦しい思いをして欲しくない……」
「―――」
 骸は。
 六道骸は。
 少しだけ呼吸を止め、しかし表情は変わらぬ怒りを保ったまま、嘲りに満ちた笑みを浮かべる。
「ならば、この事実は如何でしょう? ―――ボンゴレ」
「……」
「貴方の情報をミルフィオーレに流したのは僕です、とね」
「嘘だ」
「事実だと言ったでしょう? 最早ボンゴレに価値は無いんです」
「嘘だよ。嘘だ、骸―――」
「馬鹿を」
「だったら」
 言って良いのかは考えなかった。
「お前、……何でそんな泣きそうな顔してるんだ」
「黙れ!」
「ぐっ」
「ツナさん!」
 見ているしか出来なかったハルの悲鳴が部屋に響く。その声にすら顔を顰めて、骸は言った。
「自分が可愛かったら、甘いのも大概にしておくんですね」
 吐き捨てて踵を返す。綱吉は喘いだ。
「――――ろ」
 鳩尾にまともに蹴りが入った。胃の中身が空だったのは幸運としか言いようがない。それでも逆流してきた胃液を袖で乱暴に拭って、骸の背中を見据える。
「ク、―――ロームは、医務室にいるよ」
「………」
 返答は無かった。見えなくなった背中に溜め息を吐くと同時、ハルの存在を思い出して眉を寄せる。
「変な所見せてゴメン、―――ハル」
「見てませんよ」
「?」
 予想外の返答に首を傾げる。ハルは言葉を紡いだ。
「ハルは、何も見てないし、聞いてませんよ。ハルはツナさんを信じてるから、何も知らなくても、何も判らなくても、平気なんです」
 時々。
 何故彼女はこんなにも強いのだろうと―――思う。
「だって、皆で帰るんでしょう? ツナさん」
 泣きそうな顔でそう言って身を翻す彼女に、綱吉は口を開いた。
 未だ大きな声は出そうにないが。
「ハル!」
「―――」
「絶対、遊園地行こうな」
「……! はい!」
 振り向いた顔は眼が赤かったけれど、それでも満面の笑みで彼女は頷いた。

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