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神の名前を知ってるか

とある友人の話だ。まぁ、彼女――そう、同い年の女性なのだが――も、不幸なものでね。望んでもいないのに子が出来た。下ろす事も出来なかった。金が無かったんだな。それでも育てる事を決意しただけ凄いと、そう思うのだが。その彼女が子供に付けた名前が、『神』なんだ。カミと書いて、ジン。何故かと問うたら『世界で最も滑稽な名を』と。確かに道化以外の何ものでもないのだろうねよりによって神、なぞとそんな馬鹿馬鹿しいもの! 望まぬ行為を強いた男へのせめてもの皮肉なのだろうな。尤もその男が今生きているのかは知らないのだが。いや、いきなり何故このような話を始めたかと問われれば私には常々皆に訊きたい事があってね。それと言うのが、
神の名前を、知ってるかい?
世界、というものがある。酷くちっぽけで守る価値の欠片も無いものだ。世界はいつか滅びるだろう。何故なら存在するものであるからだ。あぁけれど恐らく心配の必要は無い、のだろうねだってその時は神が世界を創るのであろうから! 神なぞ存在しないというのに。神の名前を知ってるか。神には二つの名前がある。まぁどちらにしろ恐ろしく意味の無いものであるのだが。世界、という存在がある。世界が不在の時にこそ神は在る。世界に成り代わった神は世界を創り出す。この繰り返しのなんと無意味な事か! 『無』という概念がある。それこそが神だ。『無』が神を生み出すのではなく、『無』、そのものが神であるのだよ! 神は世界が不在と化した時に不在を存在へと変え己を存在から不在へと変える。安心しろよ、世界が滅んだってどうせまたすぐ神が世界を創るんだ。けれど神は生み出すだけで何もしない。何もしない。何もしないのではなく出来ない、のだろうね何故なら世界が在る時に神は無いので! 神は『無』。『無』にして『全』。何故ならどちらも虚ろを示す単語であるのだから。全てを生み出す無。あぁなんと簡単な答えか賢者よ答えは此処に在る!

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